(カ) なお,上記のことを本件についてみると,本件協定が締結された時
点では,現実に川崎市が本件各金融機関に損失補償することになるかど
うか,また,いつの時点でいかなる金額を支出することになるのかは未
確定であったが,住民としては,旧法下においても,その履行の差止め
や契約の相手方に対する法律関係の不存在確認を求めて監査請求ないし
住民訴訟をすることが可能であったものと考えられる。
この点,差止め
の訴えについては,その時点での訴外会社の経営状況等にもよるが,既
に本件協定が締結されており,その補償限度額が9億円という高額であ
ることからすれば一応適法な訴えと解されるし,法律関係不存在確認の
訴えについては,これができないとする理由はないものと思われる(こ
の点,原告は回復困難な損害が生ずるおそれがある場合にのみ同訴えが
許されると主張するが,そのように解すべき根拠はない。)。
エ以上のとおり,本件協定の締結を対象とした監査請求は,その締結日で
ある平成6年5月10日から1年以内にすべきであって,本件監査請求は
期間を徒過してされたものである。
(4) 正当な理由の有無について
ア地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無は,当該
行為が秘密裡にされた場合には,特段の事情のない限り,普通地方公共団
体の住民が相当の注意力を持って調査したときに客観的にみて当該行為を
知ることができたかどうか,また,当該行為を知ることができたと解され
る時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきもの
である(最高裁判所昭和63年4月22日第二小法廷判決・裁判集民事1
54号57頁参照。
そして) ,このことは,当該行為が秘密裡にされた場
合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽く
しても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内
容を知ることができなかった場合も同様であると解されるから,この場合
には,上記正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団
体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当
該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内
に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁判所平
成14年9月12日第一小法廷判決・民集56巻7号1481頁参照。
最
高裁判所平成14年9月17日第三小法廷判決・裁判集民事207号11
1頁参照)。
イこれを本件についてみると,少なくとも,原告代表者Dは,平成15年
4月18日付けで,川崎市長に対し,本件協定書及びその関係書類につい
て行政文書の開示請求をし,川崎市長は同年5月2日付けで全部開示の通
知をしており(甲47,48),原告は,川崎市長に対し訴外会社の株主
として同社の会社整理の申立てをしないという怠る事実が違法であること
の確認を求めた別件住民訴訟(当庁平成15年(行ウ)第23号)を提起
し,当該訴訟で提出した平成15年7月16日付け準備書面(1)(乙34)
において本件協定が財政援助制限法3条に違反する旨主張していたと認め
られるから,これから1年半以上を経過してされた本件監査請求が,上記
相当な期間内にされたものということはできない。
したがって,本件監査
請求に地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由があるというこ
とはできない。
原告は,違法な支出負担行為に基づき市が損害賠償請求権を取得するの
は,現実に損害が発生した場合に限られるから,支出負担行為を行った者
の責任を追及することが損害発生の後になることには正当な理由がある旨
主張するが,上記(4)で述べ3 たところによれば,このような理由により監
査請求を控えることに正当な理由があるということはできない。
(5) 小括
以上のとおり,本件訴えは,支出命令及び支出に係る部分は適法な監査請
求を経たものであるが,本件協定の締結に係る部分は適法な監査請求を経た
ものということはできない。
したがって,A元市長に対して損害賠償請求を
するよう求める訴えは不適法である。