秋田県司法書士会
すなわち,監査請求は,財務会
計上の行為又は怠る事実を対象としてされるものであって,監査委員に
求める措置が,当該行為の防止,是正,怠る事実を改めること及び損害
のてん補のいずれであるかによって,監査請求の対象が異なるというわ
けではない。
また,監査請求を前置してされる住民訴訟についてみても,その対象
とする財務会計上の行為又は怠る事実について監査請求を経ていると認
められる限り,監査請求において求めていた具体的措置とは異なる内容
の請求をすることも許されると解されるから,この点からも監査請求の
期間を住民訴訟で求める請求の内容ごとに考える必要があるとは解され
ない。
(ウ) 原告は,支出負担行為がされた時期を基準にすると,当該職員に損
害賠償請求(賠償命令)することを求めることができず,そのような請
求をする機会が保障される必要がある旨を主張する。
しかしながら,住民訴訟制度の目的は,住民が納税者としての立場か
ら,地方公共団体が違法な財務会計上の行為によって損害を被ることを
防止し,あるいは被った損害を回復する手段を設け,これによって地方
公共団体が適正な財務会計処理を行うことを保障する点にある(監査請
求制度も,その対象が不当な財務会計上の行為を含む点を除けば,同趣
旨の制度であるということができる。)。
このような制度趣旨からすると,監査請求及び住民訴訟において,契
約の締結行為の当否,適否を争うことができるとされているのも,その
後に予定された契約の履行により地方公共団体が損害を被ることを防止
したり,あるいは被った損害を回復するためであって,契約の締結時に
おいて,履行行為の差止めや法律関係の不存在確認(旧法下)を求める
ことができれば,契約が締結された結果として発生した損害について当
該職員に対する損害賠償請求等を求める機会が保障されることが必須の
要請とまでは解されない。
もとより,監査請求の可否とは関わりなく,
当該地方公共団体は当該契約に起因して損害が発生すれば,当該職員に
対して損害賠償等の請求をなし得るわけであるし,その請求が行われな
いときには当該請求を怠る事実についての監査請求や住民訴訟の提起も
可能なのであるから,上記のように解することによって特段の不都合が
あるとも認められない。
(エ) また, 原告は,平成9年最判(最高裁判所平成9年1月28日第
三小法廷判決・民集51巻1号287頁)を上記主張の根拠として指摘
している。
しかしながら,上記最高裁判決は,財務会計上の行為が違法,無効で
あることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の
管理を怠る事実とする監査請求について,上記請求権が財務会計上の行
為がされた時点においてはいまだ発生しておらず,又はこれを行使する
ことができない場合には,実体法上の請求権が発生し,これを行使する
ことができることになった日を基準として地方自治法242条2項の規
定を適用すべき旨を判示したものである。
すなわち,上記判決は怠る事
実に係る監査請求について同条項の適用関係を明らかにしたものであ
り,本件のように,本件協定の締結という財務会計上の行為(当該行為)
が監査請求の対象とされた場合について判断したものではない。
原告は,同判決は,怠る事実に固有のものではないと主張するが,同
判決は,上記のとおり,怠る事実に係る請求権が発生しておらず,又は
行使することができない場合には,監査請求の対象となる怠る事実が存
在しないため,その監査請求期間については上記判示のとおりに解すべ
きであると判示しているのであって,財務会計上の行為(当該行為)を
対象とする監査請求の場合には,当該行為は既に存在しており,監査請
求の対象とし得るのであるから,この二つの場合を同一に論じることは
できない。
(オ) そして,原告の主張によった場合,原告が主張するように,地方自
治法242条2項にいう「当該行為のあった日」とは,当該行為によっ
て直ちに損害が発生するという関係が存在しない場合は損害の発生時点
をいうと解するか,一つの契約締結行為について,求める措置の内容に
応じて,契約締結日から1年間と,当該職員に対する損害賠償請求権が
発生した日から1年間という二つの監査請求期間があると解するほかは
ないように思われるが,このような解釈は同条項の「当該行為のあった
日から1年」との文言と大きく乖離することになり,困難というべきで
ある。